主演 森田剛でしかありえない『FORTUNE』観劇感想


先日観て参りました、剛くん主演舞台『FORTUNE』。
なっかなか感想をまとめられなくて、*1どう言葉にしたらいいか悩んだというのもあるし、ファウスト読んでみたり少プレやらネクジェネやらに現を抜かしてたりもしてたから…もう2週間近く経ってしまった。

あらすじといくつかの雑誌のインタビューを読んだ時点でこれはおもしろそうだとすごく期待していたのだけど、期待以上というか、ネタバレなしで言うならとにかく「凄まじかった」という感じ。
ボルドーのセーターと赤いハンカチを装備して、森田剛の女としてウキウキ浮かれて気軽な気持ちで観に行ったらとんでもなかった。

劇場を後にする時、「すげえの観た」としか考えられなかった。
言い表す言葉がないというか、「言葉」に収まるものじゃなかったから。

めっちゃめちゃ恐かったし、めっちゃめちゃ哀しくもあって、なんだかすごく胸に来るものがあってめっちゃめちゃ泣けた。

強烈だった場面は多々ありすぎるほどあるんだけど、ひとつ挙げるなら第一幕の後半(だったか?)、ゲーテの『ファウスト』ならワルプルギスの夜っぽい場面。
トランス状態というか無心に踊り狂う剛くんを見て「これは主演:森田剛でしかありえないな」と思った。
恐ろしいあまりについ心奪われて見入ってしまうような、神がかり的な身体表現(ダンス)がものすごくリアルで。

マギー夫の死が語られた時も、カールをヤギにした時も、悪魔の力で蹂躙されるマギーの絶叫と屈服も恐ろしくて目が離せなかったけど、恐怖と絶望とで涙が出たのは警察署?の場面。

なんていうか、狂気が凝縮されたような。
ぐったりして「疲れた」と繰り返したかと思えば刑務所に入れてくれとしつこく懇願したり、自分にしか見えないルーシーの登場に半狂乱になったりと精神異常としか言いようのない不安定さは見てて心がザワザワした。

録音を再生し出した時は訳が分からなかったけど、「ありがとうって~」のセリフが来た時心底ぞっとしたし、一時落ち着いたように見えたフォーチュンが突然気持ちが高ぶって怒鳴るようにまくしたてるのも、相方が銃殺された女性警官(平田敦子さん)の悲鳴がキャーとかギャーじゃなくてあ゙ー!あ゙ー!なのも、本当に本当におぞましくて恐ろしかった。
ここのあれこれ、まさしく悪魔の所業って感じで。

それで刑務所に入るっていう望みを叶えて一時の心の安らぎを得るわけだけど、始めマギーの夫の死に対してはあんなに拒否感示して葛藤してたのに、自分の望みのためなら殺人も厭わなくなってしまったフォーチュンがやるせなくて、なんかすごく泣けた。

剛くんが各種インタビューで繰り返し語っていた「諦めない」というテーマ、わたしにとってはむしろ「諦めの悪さ」や自己中心的さ、傲慢さ、執念めいたものを感じたけど、でもその自己中なまでの諦めの悪さという力こそが時に身を滅ぼすほどの弱さを内包する人間がままならぬ人生(運命)を切り開き生き抜くための希望であり強さでもあるんだろうなと。

剛くんは憑依型の天才だと言われるのを時々見るけれど、この作品でそれがますます強く印象づけられた。*2多分感覚的にはヒメアノールに近いんじゃないかと思うけど、そっちは恐ろしそう過ぎて見られないからわからん。
マギーへの思いの焦燥と渇望と絶望も、自分が神になったかのような傍若無人な振る舞いも、狂気じみた数々の絶叫も、母への愛の繊細な滲み出方も、視力を失ってぽつねんと独房に座る空っぽな感じも、永遠の罪と罰をどうにか免れようと奔走するのも、最後の最後までもがき続ける姿も、どれもこれもが演技なんてもんじゃない生々しさ、フォーチュンという人間の生き様そのもので。

数えるほどしか芝居を観たこともないわたしが言うのは超絶おこがましいんだけど、このフォーチュンを内面含めて完璧に体現し得るのは日本中、世界中どこを探しても森田剛しかいないんじゃないかと本気で思う。

わたしが今までまともに見たお芝居をする剛くんは『ハロー張りネズミ』『すべての四月のために』『空ばかり見ていた』の3つだけで、それらにも憑依型天才の雰囲気を感じなくもなかったけど、この作品のこの役で初めて“憑依型の天才・森田剛”の真骨頂を見たと思った。

リアルに命削ってるようで、剛くんこそ悪魔と契約してんじゃないかとつい思ってしまうほどだったから。

お母さんとのやり取り(特に独房での)とかルーシーとの契約のシーンとか関係性の変化とか悪魔や妖魔の人々(?)が超それらしかったとか音の使い方が効果的でゾクゾクしたとか地の底から響いてくるように繰り返し投げかけられる威圧的に責め立てるような「お前はどうする」の問いが耳にこびりついてザワザワするとか、書きたいこと山ほどあるんだけど、表現しきれないしキリがなさすぎるからこの程度にしてあとは自分のレポノートに譲ります。

あんな凄まじいのは後にも先にもなかなか出ないと思うし、観に行けてよかったと心から思えた作品でした。

ちなみに、カテコ3回目ないかなと思ったけど剛くんひとりだけ出て来てくれて、最後ちょっとだけおっきく手を振ってくれた。
自分的にはかなりハードな作品だったから、それがなんかすごくほっとしたなあ。

今年の現場始めこれって強烈すぎた…
早くも現場オブザイヤー最有力候補(笑)

FC枠外した時はちょっと落ち込んだけど、諦めずに(笑)チケットぴあ覗いて本当によかった!*3諦めきれなくて年末ギリギリにチケットぴあ見てみたら2公演1枚ずつ残ってた。真ん中のめっちゃ見やすい席取れた。

脚注[+]